2011年1月5日水曜日

亡き児文也の霊に捧ぐ「六月の雨」

昭和11年11月10日、長男・文也病没。
中也は詩集『在りし日の歌』の原稿を小林秀雄に託して死んだ。昭和12年10月22日、享年30歳。小林は友として翌年これを刊行する。

またひとしきり 午前の雨が
菖蒲のいろの みどりいろ
眼うるめる 面長き女
たちあらはれて 消えてゆく
 
たちあらはれて 消えゆけば
うれひに沈み しとしとと
畠の上に 落ちてゐる
はてしもしれず 落ちてゐる
             
       お太鼓叩いて 笛吹いて
       あどけない子が 日曜日
       畳の上で 遊びます

       お太鼓叩いて 笛吹いて
       遊んでゐれば 雨が降る
       櫺子の外に 雨が降る


六月の雨が家屋のトタン屋根を叩きます。亡き児の霊がお太鼓叩いて、笛を吹いて、そして雨は降ります。

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