2011年7月7日木曜日

未刊詩篇 『ひからびた心』

ひからびたおれの心は
そこに小鳥がきて啼き
其処に小鳥が巣を作り
卵を生むに適していた

ひからびたおれの心は
小さなものの心の動きと
握ればつぶれてしまひさうなものの動きを
掌に感じてゐる必要があつた

ひからびたおれの心は
贅沢にもそのやうなものを要求し
贅沢にもそのやうなものを所持したために
小さきものにはまことすまないと思ふのであつた

ひからびたおれの心は
それゆゑに何はさて謙虚であり
小さきものをいとほしみいとほしみ
むしろそのぼうれい(暴戻)を快いこととするのであつた

そして私はえたいの知れない悲しみの日を味つたのだが
小さきものはやがて大きくなり
自分の幼時を忘れてしまひ
大きなものは次第に老いて

やがて死にゆくものであるから
季節は移りかはりゆくから
ひからびたおれの心は
ひからびた上にもひからびていつて

ひからびてひからびてひからびてひからびて
――いつそひわ(干割)れてしまへたら
無の中へ飛び行つて
そこで案外安楽の暮せるのかも知れぬと思つた